リハビリテーション

【失語症の種類と特徴】適切な評価とリハビリ計画の立て方

失語症というと、単に「言葉をうまく話せない状態」と思われがちですが、実際はそれ以上に複雑で奥深い分野です。

本記事では、失語症の基本的な理解から、詳細な分類、評価方法、そして回復過程まで、幅広く解説していきます

失語とは

脳損傷によって起こる言語機能の障害をさします。

右利き者の大半において左大脳半球が言語性優位半球であり、そのうちの言語野が損傷されることにより、脳が言語をうまく操れなくなって起こります。

失語では、多かれ少なかれ、目標の単語が出てこない呼称障害・喚語困難ならびに単語や音を誤る錯語がみられます。

また、単語や文章の理解障害を伴うことが多いです。

失語症は、脳卒中発症後2週間の間にもっとも著明な改善が見られ、また、おおよそ12か月で急性期で認められた失語症の40%は改善するとされます。

また、軽度失語症は発症後2週間、中等度失語症は6週間、重度失語症は10週間が最も回復するとされています。

失語症の回復は、運動障害や他の認知障害と同じく脳卒中の急性期から回復期に顕著です。

したがって、特にこの間は失語症に対し、専門的リハビリテーションの適応となります。しかし、その治療内容の選択については、エビデンスの高い研究報告はまだ少ないのが現状です。

失語の評価

日本では、標準失語症検査(SLTA)かWAB失語症検査が汎用されています。

前者から得られた総合的評価とコミュニケーション能力には高い相関が報告されています。また、WAB失語症検査の信頼性・妥当性は、十分確立されています。

失語症の評価は、失語症のタイプを正しく把握し、その回復を客観的に判断するために行われます。

失語症の分類

失語 分類

ブローカ失語

ブローカ失語、または運動失語とも呼ばれ、大脳のBroca野(Brodmann44野)の損傷によって現れます。

この失語症では、「言葉を理解することはできるが、言葉を話すことができない」状態が起こります。自発的な言語表現が妨げられ、重度の場合は発話が全くできないこともあります。

発話が可能な場合でも、努力を必要とし、言葉の流暢さが欠けるのが最も特徴的です。

言語の理解能力は比較的保たれており、読み書き能力では、かな文字よりも漢字の方が良好であることが多いと言われています。

 

ウェルニッケ失語

ウェルニッケ失語、または感覚失語と呼ばれ、大脳のWernicke野(Brodmann22野)の損傷によって現れます。

この失語症では、「言葉を理解できず、言葉は流暢に話すことができるが(しかし理解がないため意味不明な言葉となる)」状態が特徴です。

発話は流暢でも内容が乏しく、言葉の聴覚的理解が著しく障害されます。話す際には言い間違いが多く、意味不明な造語が目立ちます。

多弁でありながら、自身の障害に気づかないことが多い特徴があります。

 

伝導失語

伝導失語は、ウェルニッケ野からブローカ野への連絡路である弓状束の損傷によって引き起こされます。

この失語症では、流暢な発話はありますが、ウェルニッケ失語とは異なり言葉の理解が良好です。

特徴は、言語の理解と発話が比較的良好でありながら、音韻的な誤り(似た音を誤って聞くこと、「えんぴつ」を「えんとつ」と聞くなど)や聴覚的な記憶力の低下(短期記憶能力の低下による聞いた言葉の覚えにくさ)を示す障害です。

特に、言葉を繰り返す能力が低下します。

 

全失語

全失語とは、発語・呼称・理解・復唱・文字言語のすべての機能にわたって重篤な障害をきたす状態を言います。

そして自発的に、何らかの反応を示そうとする点で、無言症と鑑別されます。

 

超皮質性感覚失語

超皮質性感覚失語は、言語理解が不可能ながらも流暢な会話があり、そのためウェルニッケ失語に類似しています。

ただし、復唱ができることがウェルニッケ失語との違いです。

この失語症では、特に表出面で見られる特徴的な症状は語性錯語です。

つまり、猿をゴリラと言ったり、犬を猫と言ったりすることがあります。

この障害の責任病巣は、Wernicke野よりも下方の側頭葉、そしてBroca野よりも前方の前頭葉にあります。

 

超皮質性運動失語

超皮質性運動失語では、言語の自発性が著しく低下しており、一方で言語理解は良好です。

これは、ブローカ失語の不全形とも解釈されます。この失語症の責任病巣は、ブローカ失語の原因となるBroca野の上方または前方に位置していると考えられています。

復唱が可能な点がブローカ失語との鑑別点です。

 

混合型超皮質性失語

混合型超皮質性失語は、先述の2つの失語の特徴を併せ持ちます。

復唱という機能は残っていますが、全ての言語機能が障害されています。

 

健忘失語

健忘失語は、全ての言語能力に軽度な障害が現れる失語症です。

主な症状は、必要な単語が思い浮かばないことです。

例えば、手術を行う際に必要な「ペアン」という言葉が思いつかず、「あれっ」「なんだっけ、あれ出して」といった迂言(遠回しに言うこと)が特徴です。

この症状では、頭頂葉の角回が影響を受けることが多いとされます。

 

失語の回復過程

レベル4: 複雑な文の理解
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| [Broca失語の一部]
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レベル3: 基本的な文の理解
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| [Broca失語、Wernicke失語の一部]
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レベル2: 語順による理解
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| [混合型失語、Wernicke失語]
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レベル1: 単語の意味による理解
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| [全失語]
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基礎: 単語の理解、記憶力

1. 基礎レベル:
– これは言語理解の出発点です。
– 単語を理解し、短期的に記憶できる能力が必要です。

2. レベル1(意味ストラテジー):
– 単語の意味から文全体の意味を推測します。
– 例:「犬」「食べる」「骨」という単語から、「犬が骨を食べている」と推測します。
– 全失語の患者さんは、多くの場合このレベルまで回復します。

3. レベル2(語順ストラテジー):
– 単語の順序から文の意味を理解します。
– 例:「男の子」「追いかける」「犬」という順序から、「男の子が犬を追いかけている」と理解します。
– 混合型失語やWernicke失語の患者さんは、多くの場合このレベルまで回復します。

4. レベル3(基本的な助詞ストラテジー):
– 「が」「を」「に」などの基本的な助詞を理解して文の意味を把握します。
– 例:「猫が魚を食べる」と「魚が猫を食べる」の違いを理解できます。
– Broca失語の患者さんや一部のWernicke失語の患者さんは、このレベルまで回復することがあります。

5. レベル4(複雑な助詞ストラテジー):
– より複雑な文法構造を理解します。
– 例:「私は彼が来ると思う」のような文を理解できます。
– Broca失語の一部の患者さんがこのレベルに達することがありますが、多くの場合困難を伴います。

 

重要なポイント
  • 回復は通常、下から上へと進みます。
  • 全ての患者さんが最上位まで回復するわけではありません。
  • 回復の程度は個人差が大きく、失語のタイプによっても異なります。
  • 聴覚的理解(聞いて理解すること)と視覚的理解(読んで理解すること)で、回復のレベルが異なる場合があります。

 

失語症患者の構文の理解力の回復メカニズム

失語の治療内容

言語聴覚療法が失語症の主要な治療法となっています。

最近のメタアナリシスによると、訓練時間と失語症の回復には有意な相関が見られています。

つまり、より多くの時間をリハビリテーションに費やすほど、回復の可能性が高まるということです。

 

1. オーダーメイドの治療
– 患者さん一人ひとりの症状に合わせて治療プランを作成
– 失語症のタイプや程度に応じて柔軟に対応

2. 言語機能を総合的に改善
– 話す、聞く、読む、書くなど、言語に関わるすべての面をケア
– 日常生活でのコミュニケーション能力向上を目指す

3. 進歩に合わせて調整可能
– 回復の進み具合に応じて治療内容を変更
– 常に最適な訓練を提供

4. 科学的根拠がある
– 多くの研究で効果が実証済み
– 医療専門家から広く支持されている

5. 長期的な効果
– 継続的な言語機能の改善をサポート
– 新しいコミュニケーション方法の習得もフォロー

6. 他の治療法との相性が良い
– コンピューターを使った訓練やグループ療法など、他の方法と組み合わせやすい
– より効果的な総合的アプローチが可能

脳卒中後はできるだけ早く治療を始めることが大切です。ただし、効果には個人差があるため、焦らず粘り強く取り組むことが成功の鍵となります。

言語聴覚療法は、失語症と向き合う方々に希望をもたらす治療法です。専門家のサポートを受けながら、一歩一歩、コミュニケーション能力の回復を目指しましょう。

 

まとめ

失語症は、単なる「言葉が出ない」状態ではなく、多様な症状と複雑なメカニズムを持つ障害です。その理解と治療には、神経学、言語学、リハビリテーション医学など、多岐にわたる分野の知識が必要です。

 

失語症の種類や症状は多様であり、個々の患者に合わせた適切な評価と治療計画が重要です。早期からの集中的なリハビリテーションが効果的であることが示されていますが、最適な治療法についてはさらなる研究が必要です。

 

失語症患者とその家族にとって、この障害は大きな挑戦となりますが、適切な理解と支援があれば、多くの患者が言語機能の改善を経験できます。医療従事者、言語聴覚士、そして患者の家族が協力して、個々の患者に最適な回復の道筋を見出していくことが重要です。

 

失語症の研究と治療は日々進歩しており、今後さらなる発展が期待されます。患者一人一人の生活の質を向上させるため、継続的な研究と臨床実践の蓄積が不可欠です。

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