重度脳梗塞患者の経口摂取再開を巡る議論から、回復期リハビリ病棟が直面する様々な課題と倫理的判断が必要になります。
今回は、ある病院でディスカッションされた患者にことについて記載しています。
Contents
回復期リハビリ病棟における経管栄養と治療方針の倫理的ジレンマ
- 重度脳梗塞による重度の運動障害
- コミュニケーション困難
- 経鼻経管栄養管理中
- 覚醒状態に改善傾向
ある回復期リハビリ病棟で、重度の脳梗塞があり体動ができず、会話もままならない患者がいた。
言語聴覚士は、経管栄養が抜けないかと考え色んな評価を進めていた。
カンファレンスで、患者の嚥下機能と今後の栄養経路について議論された。
また、今の覚醒状況や麻痺の程度からも3食口から食べることは難しいことが予想される。
結局、お楽しみ程度にしかゴールできない可能性が高いのに、誤嚥して熱発するリスクをどこまで許容するのか?命取りになる可能性もゼロではなく、患者家族へDNRをすることにもなるかもしれない。ただ、回復期リハビリ病棟で看取りとはならないはず。
長く療養できる病院へ転院して、家族へ説明した上で経管栄養を抜去するか?お楽しみ程度の経口を追求するか?を議論した方が患者のためになる。
仮に、朝昼晩と嚥下出来る状況になっても全介助で食事となると看護介護のマンパワーの問題も付きまとう。
経営的にも、体調が安定しない患者をまるめ(包括)の病棟にいることは、コストが持ち出しになるし、在宅復帰率や回復率の基準がある病棟は旨味が少ない。
また、入院期限が設けられているのだから、ズルズルと熱を出し安定しないと受け入れ先も決まらないし、期限内に収まらない減算にもなる。
そもそも、急性期の段階で回復期への転院をすすめられること自体がおかしい訳。
とはいえ、今は経営的にどこも厳しい。患者を選んでられないので、回復の希望がない人でも、診断名だけで回復期への送られることも多い。入院が多く選べる状況であれば話も違うだろうが、選べないなら受けざるおえない。
重度嚥下障がい者への多角的視点
医学的観点からどこまでリスクを許容するか?
3食経口摂取達成は、難しいことが予想される。誤嚥リスクと発熱のリスク管理は今後も付きまとい生命予後への影響する可能性はある。
死亡リスクもゼロではないことを家族へ説明が必要であるが、ここは回復期リハ病棟で機能がまるで違う。
リハビリテーション的観点
STによる嚥下機能評価は、患者本人の最大限の機能を評価することには意味がある。
3食口からとはならないが、1食やお楽しみ程度の経口摂取の可能性はゼロではない。
看護・介護の視点
経管栄養抜去のため身体抑制の必要性と倫理的課題がある。すぐには抜けない患者を拘束し続ける可能性もある。
仮に、3食食べれたとしても食事介助に伴うマンパワーの問題や日常的なケアの負担が増える。
回復期リハビリ病棟の制度的制約
回復期リハ病棟は包括払いで、リハビリ以外の治療行為はマルメとなり、薬代や治療費は病院側の持ち出しとなり経営的採算性が悪くなる。
また、病状悪化による転科や転院は在宅復帰率の基準にも影響する。加えて、入院期限があるので病状が非安定では、後方の受け入れも悪くなり在院日数がかさんでしまう。
まとめ
多角的な視点から患者の能力を評価すると限界が見える中、どこまで医療機関側がリスクを許容するのかの議論になった。
結論としては、患者をリハビリ入院させておくことは構わないが、それが本当に患者のためになるのかを考える必要がある。
自発的に欲求を口に出せないので、本人が食べたい意思を表出できない。家族への説明が必要であるが、たとえ家族が望んでも誤嚥のリスクをとりながら、転院や看取りも考えないといけない。
胃ろうの提案も選択肢としてはあるが、医師により異なるだろう。
なかなか難しい問題であるが、今回の議論で個人的な結論はこのような患者は急性期病院から回復期へ送るべきではないと思う。そもそも、寝たきりで多少の覚醒の改善で9単位?これが本当に意味のあるリハビリなのか?と問われている。