歩行の再獲得はとりわけリハビリ職にとって重要な目標の一つです。
当然、患者さんにとっても同じ思いがあるますよね。
しかし、脳卒中後の歩行はどれくらい再獲得できるのか?
どんなトレーニングしたら良いのか?あまり詳しく知られていませんよね。
今回は、脳卒中後の歩行再獲得の傾向やアプローチ方法についてまとめました。
Contents
歩行予後予測
- 歩行能力について,発症後1ヶ月の時点で歩行が自立ではなかった脳卒中患者の3ヶ月,6ヶ月,12ヶ月後の歩行自立を予測したシステマティックレビュー発症後1ヶ月で測定された12の予測因子の関連性を検討している。3ヶ月後では,年齢が若く,皮質脊髄路が損傷されておらず,下肢筋力が良好で,認知機能障害がなく,半側無視を認めず,失禁がなく,座位バランスが良好で,日常生活活動が自立していることが自立した歩行の予測因子であった。6ヶ月では,年齢が若く,失禁がなく,座位バランスが良好12ヶ月では統計学的に有意な予測因子特定できなかった。
- 歩行の良好な帰結の,発症後2週間の時点からの予測における予測因子は,年齢が若く,下肢機能障害が軽度,感覚障害が軽度,半盲を認めず,良好な座位バランスと体幹機能
- 王立オランダ理学療法学会のガイドラインでは,発症後6ヶ月での歩行自立の予測において,発症後1~2週以内のTrunk Control Testの座位バランスが25点,かつ,麻痺側下肢運動機能がMotricity Indexで25点以上,あるいはFugl-Meyer assessmentで19点以上が必要としており,加えて,初期の日常生活活動が良好で,年齢が若く,同名半盲がなく,尿失禁がなく,病前に歩行や日常生活活動に制限がないことを関連因子として推奨
- Time to Walking Independently after STroke algorithmでは,脳梗塞と脳出血の患者を対象に,決定木を用いて分析した結果,発症1週間後のTCTが40点を超えた患者は6週間後の歩行が自立し,40点未満の患者は,麻痺側股関節伸展筋力が徒手筋力テストにて3以上であれば,発症後12週間で歩行が自立し,3未満であれば歩行が介助であった。
- 船橋市立リハ病院入院時の BBS 点数と入院 3 か月後の歩行自立度(FIM6~7)の関係の調査では、リハ病院入院時 BBS が 13 点未満の人は 191 名、そのうち 3 か月後に歩行自立したのは24 名(12.6%)。一方、入院時 BBS が 13 点以上の人は 60 名、そのうち 3 か月後に歩行自立したのは 41 人だった(68.3%)。
歩行自立の予後予測まとめ
高次脳機能障害(特に半盲)がない
下肢の筋力低下がない(股関節伸展筋3以上)
下肢の分離性が良い(FMA19点以上)
体幹機能が良い(発症1WでTCT40点以上)
バランスが良い(入棟時BBS13点以上)
多くの論文が発症早期(1W~4W)の下肢機能・体幹機能・認知機能に注目しています。もちろん下肢・体幹機能が良い方が歩行獲得の感度が良くなるのは当然ですよね。なので、急性期や回復期の前半は下肢や体幹機能の向上を図ることが重要になります。
ただ、12か月時点では統計的に優位な要素が見当たらなかったことから、長い目で見ると早期の状況はあまり関係ないともいえます。仮に、早期から下肢や体幹機能が上がらなかったとしても、諦めずに残された機能で歩行を再建する歩行トレーニングも大切になります。
歩行再建トレーニング
脳卒中片麻痺患者の歩行訓練についてのポイントをまとめます。
1. 歩行訓練の段階的進行: 歩行訓練は通常、平行棒内歩行から始まり、4脚杖歩行、T字杖歩行へと進行し、介助歩行から監視歩行、最終的には独立歩行へと進展します。装具を使用する場合も考慮します。
2. 装具の選択: 患者の状態に応じて、長下肢装具や短下肢装具など、適切な装具を選択します。内反尖足の症例では、装具だけでは不十分な場合、フェノールブロックや脛骨神経ブロックを検討します。ただし、感覚障害に気をつける必要があります。
3. トレッドミル歩行訓練: 脳卒中患者の歩行訓練にはトレッドミル歩行訓練がよく使用されます。トレッドミルトレーニングの効果は確かめられていない部分もありますが、適切な練習量が重要です。練習が難しい場合には部分的な体重免荷トレッドミル訓練が選択肢として考慮されます。
4. バイオフィードバックと電気刺激: バイオフィードバックや電気刺激は、エビデンスの高い治療法とされています。施設の状況に合わせて実施されます。
5. 目標は歩行自立: 脳卒中患者の主要な目標は歩行自立です。患者が少しでも歩行できるようになれば、段階的に歩行訓練を進めます。装具の使用が安定性向上に寄与する場合も検討されます。
6. 練習量の重要性: 一日に30〜60分、週5〜7日の理学療法が歩行自立度や歩行能力の改善に寄与します。リハビリテーションの専門施設でも十分な練習が必要です。
7. 個別アプローチ: 最新の研究によれば、特定のアプローチが優れているわけではなく、個別の患者に合わせた複数のアプローチを組み合わせることが最も効果的です。バランストレーニング、筋力トレーニング、有酸素運動などを組み合わせ、最適なアプローチを見つけます。
歩行自立の定義
地域在住の高齢者では概ね以下のような値になる。
屋内歩行自立:10mを20 秒(0.5m/s)
屋外歩行自立:10mを10 秒(1m/s)
6分間歩行のカットオフ値は、屋内か地域移動かを予測するカットオフ値は6分間歩行距離が205 m、快適歩行速度が0.49 m/sです。地域移動のなかで制限の有無を予測するカットオフ値は、6分間歩行距離が288 m、快適歩行速度が0.93 m/sとされています。
一般に、歩行距離<200mは外出不可、> 400mは歩行自立、外出可とされています
トレーニング
装具療法
脳卒中治療ガイドラインの最新改訂では、長下肢装具に関する以前の推奨文が存在しなかったため、今回の改訂で歩行訓練時に長下肢装具の使用が推奨されるようになりました。
この改訂において、装具に関する内容として、脳卒中後の片麻痺による尖足もしくは下垂足に対して、特に時期を問わず、短下肢装具の製作を検討することが適切であるとの新たな推奨文が追加されました。
支柱付き装具の使用により、動的なバランスを維持しながら歩行が可能となり、麻痺側での立位時間が延長され、歩行の振り出しは対称的になり、麻痺足の安定性が向上します。麻痺側の前脛骨筋の活動は減少する一方で、大腿四頭筋の活動が増加します(IIb)。また、短下肢装具を使用することで、装具を使用しない場合に比べて、立位でのバランスが左右対称になり、歩行のリズム(1分あたりの歩数)および歩行速度が向上し、床やカーペット上での歩行が改善されることが示唆されています(IIb)。
電気刺激療法
脳卒中治療ガイドライン2015では、下垂足を呈する脳卒中患者に対する機能的電気刺激療法を行うことが勧められていましたが、その際、治療効果の持続が短いと記載されていました。しかし、最新の改訂では、この「治療効果の持続が短い」という文言が削除されました。また、以前のガイドラインでは尖足による異常歩行に対する腱移行術の考慮(C1)が示されていましたが、今回の改訂ではこの部分が削除されました。
機能的電気刺激療法は下肢の筋肉促通や抑制に効果があり(Ib)、歩行能力の改善に寄与することが確認されています(Ib)。また、ペダリング運動は下肢麻痺筋の再教育に効果的であるとの研究報告があります。
慢性期の脳卒中患者で下垂足がある場合、総腓骨神経刺激を行うと歩行が改善することが示されています(Ib)。また、急性期の患者においても、通常の理学療法に機能的電気刺激療法を組み合わせることで足背屈力や歩行の改善が見込まれ、自宅退院率が向上します(Ib)。さらに、機能的電気刺激療法をバイオフィードバックと組み合わせることがより効果的であるとされています(Ib)。ただし、機能的電気刺激療法を中止した後の効果の持続については否定的な報告も存在します(Ib)。埋め込み型腓骨神経刺激装置も合併症がほとんどなく、歩行速度や歩行距離の改善に寄与します(Ib、IIb)。
バイオフィードバック
筋電バイオフィードバックは、歩行の改善に特に足背屈の向上に効果があります(Ia)。また、反張膝にも効果があることが示されています(Ib)。
特に、筋電バイオフィードバックと機能的電気刺激療法(FES)を組み合わせると、その効果が一層増強されることがあります。ただし、一部の研究によれば、筋電バイオフィードバックによる効果が見られない場合もあることが報告されています(Ib)。
また、関節角度を用いたバイオフィードバックが、筋電バイオフィードバックよりも歩行速度の向上に効果があるとの研究結果があります(Ib)。
また、歩隔(両足の接地位置の左右の幅)が狭い患者に対して、歩隔に関連した音を提示するバイオフィードバックを通常の理学療法に組み合わせると、歩隔の改善に寄与することが示されています(Ib)。
課題思考型アプローチ
通常の理学療法や作業療法に加え、30分間の下肢訓練(歩行訓練など)を行ったグループは、上肢訓練を行ったグループや追加の訓練を行わなかったグループと比較して、20週後において歩行能力がより改善したことが報告されています(Ib)。
また、患側下肢に焦点を当てた訓練(下肢筋力強化を中心としたサーキット訓練)を行うと、上肢訓練を行ったグループに比べて歩行速度と歩行耐久性が改善しました(Ib)。
また、神経筋促通法を行ったグループよりも訓練終了時に改善し、歩行速度の向上は歩行訓練時間と相関があることが示されました(Ib)。
さらに、歩行訓練を主体にした訓練を行うと、他の種類の訓練に比べて歩行速度と歩行耐久性が改善することが報告されています(Ia)。
課題反復トレーニング
課題の反復トレーニングは、実用的な課題や一連の課題を繰り返し練習するアプローチで、練習の量的要素と実用的な関連性を結びつける手法です。
このトレーニング方法は、適切に行われると筋力の低下を軽減し、生理学的な運動学習を促進するとされています。このアプローチでは、課題を繰り返し行うことで、以下の要素が強化されると考えられています
- 認知機能の活性化: 課題の反復トレーニングを通じて、認知機能が積極的に働かせられます。
- 日常生活への関連性: 練習する課題が日常生活と関連性があることが重要です。
- 結果とフィードバックの認識: 練習の結果や実行の質についての認識がトレーニングの一環として強化されます。
このアプローチは脳卒中リハビリテーションにおける「動作科学」の中心的な要素となっており、神経可塑性の変化が新しい実用的な動作を習得する過程で起きることが示されています。
重要なのは、単なる同じ動作の繰り返しではなく、新しい実用的な動作を繰り返し練習することが「反復」の本質であることです。
課題指向型トレーニング
課題指向型トレーニング、または実用課題トレーニングは、日常生活に関連する具体的な課題を練習する方法で、課題を部分的に練習したり、全体的に練習したりするアプローチです。
この方法はしばしば「運動学習」、または「運動再学習」、あるいは「動作科学」と呼ばれ、テクノロジーなどの補足的な手法と組み合わせて使用されることもあります。
課題指向型トレーニングは、課題の反復トレーニング(前述の方法)の一部として実施されることもあります。
例えば、手を伸ばして物をつかむ動作(reach-to-grasp)は、日常生活で行われる典型的な課題であり、手を伸ばして物をつかむ練習は課題指向型トレーニングの一例です。
トレッドミル
脳卒中治療ガイドライン2021年版において、歩行障害に関する新たな推奨文が掲載されました。以前の2015年版では、歩行機能の改善を目的としたトレッドミル訓練の推奨度はグレードB3でしたが、2021年版の改訂でその推奨度が高まりました。
免荷のないトレッドミル歩行訓練は、平地歩行訓練に比べて歩行の一部のパラメーターが改善するという報告があります(Ⅰb)。ただし、改善については有意差がなかったとの報告も存在します(Ⅱa)。
部分免荷トレッドミル歩行訓練は、神経筋促通法より歩行速度と歩行距離の改善に寄与することが示されています(Ⅰb)。また、重症の患者や高齢者においては、部分免荷トレッドミル訓練が免荷のないトレッドミル訓練よりも歩行速度と歩行距離の改善に効果的であるとの報告があります(Ⅰb)。
一方で、部分免荷トレッドミル歩行訓練が平地歩行訓練と比較して歩行の改善に有意差がないという報告も存在します(Ⅰb)。ただし、片麻痺、半盲、半身感覚障害を伴う重度の患者においては、平地歩行訓練よりも歩行スピードと歩行の耐久性が有意に改善することが示唆されています(Ⅰb)。
メタアナリシスによると、トレッドミル歩行訓練は免荷の有無に関係なく他の治療法と比べて歩行スピードと歩行介助量に有意差は見られませんが、トレッドミル上で介助なしで歩行可能な患者においては、部分免荷トレッドミルによる歩行速度の改善傾向があることが示唆されています(Ⅰa)。
さらに、トレッドミル上での歩行訓練時に下肢の動作を補助する免荷式動力型歩行補助装置を使用すると、歩行の自立度と6分間歩行距離が有意に改善することが報告されています(Ⅰa)。
高強度トレーニング
脳卒中慢性期と回復期を患者25名。患者は歩行速度が0.9m/s以下で中等度の歩行補助具を要していました。
10週間で1回あたり1時間40回のセッションを受けました。
トレーニングセッションは「トレッドミル」「地上」「階段登り」のアクティビティに分けられ、複数の難しいタスクの練習中はステップ量と有酸素運動の強度に引き続き重点が置かれました。
最初の2週間(8~10回)は、すべてのトレーニングをトレッドミルで、目標とする強度の範囲内で耐えられる最高速度で行った(すなわち、速度依存型トレッドミルトレーニング)。体重支持は必要に応じて行い、トレッドミルの速度は0.5~2.0km/hの間で、体重支持は最小限またはなし(安全支持システムの張力は最小限)とし、速度は2.0km/h以上まで上げた。
運動強度は、予測最大心拍数の70~80%として、βブロッカーなどの心拍数を抑える薬を処方されていれば10~15拍/分減少させた。
結果、合計22人の参加者が4週間以上のトレーニングを完了し、36 ± 5.8 セッションで平均 2887 ± 780 ステップ/セッションだった。快適歩行速度は (0.38 ± 0.27 ~ 0.66 ± 0.35 m/s) および最速歩行速度 (0.51 ± 0.40 ~ 0.99 ± 0.58 m/s)、麻痺片肢立位 (20% ± 5.9% ~ 25% ± 6.4%)、 6分間の歩行 (141 ± 99 ~ 260 ± 146 m) はトレーニング後に大幅に改善されました。
1セッションあたりのステップ数が約3000歩なので距離にすると1.8~2.1㎞。脳卒中の人の平均歩数は健常者(7250歩/日)と比較すると79%少なく1536 ~ 3035歩/日。座りがちな人でも5000歩/日なのではるかに低い。このトレーニングだと、1日の歩数を1セッションでこなすことになるので、いかに高強度なのかが理解できる。
平地歩行とトレッドミル歩行を検討したものでは、40名の脳卒中者を20名ずつに割り当て、1週間10回のセッションを実施。
結果は、両群ともに10mの歩行時間、6分の歩行距離、BBSスコアは大きく改善したが、両群間に差はみられなかった。ただ、歩行速度遅い (遅い<0.5m/s、速い>0.5 m/s) 平地歩行グループは、6分間の歩行テストが優位に改善した。
この結果から、トレッドミル歩行より平地歩行の方が持久力の改善に効果的だと結論付けています。
トレッドミル歩行トレーニングは、平地歩行トレーニングと大きな差はないかもしれません。どこを歩くか?よりもどんな歩行をさせるか?が大切なようです。
高強度トレーニングの研究でもわかるように、歩行スピードを通常よりも早く歩かせることや、ステップ数を多く求めるなど通常のリハよりも量的に数倍負荷をかけることにより、歩行パラメーターの改善が得られるようです。
加えて、前方へのステップにこだわれず、側方や後方へのステップを求めるようなトレーニングも有効でした。
自転車
脳卒中急性期から1年以内で10m以上を歩ける人87名
自宅で毎日中程度の強度の運動を行う必要があり、1 日あたり最大30分でした。
エアロバイク(n = 43)は自転車をこぐ、エクササイズ(n = 44)は移動運動と早歩きを実施しました。
結果、6MWTは約320mでグループ間に有意な影響は明らかにされませんでした。どちらのプログラムも、脳卒中リハビリテーションからの退院後の歩行能力の維持に同様に効果的でした。あるいは、歩行能力の向上には同様に効果がありませんでした。
つまり、脳卒中後の自宅トレーニングは歩行トレーニングにこだわる必要はなく、自転車トレーニングでも同様に効果が得られるわけです。例えば、積雪寒冷地域では冬季に屋外を歩くことは危険ですので、無理せずに屋内で自転車トレーニングを選択することも悪くないでしょう。
痙性
痙縮により内反尖足を呈する患者に対し、7%フェノールを用いて脛骨神経をブロックすることで、Ashworthスケールや筋電図上での痙縮改善効果が見られました(Ⅱb)。
また、足関節内反症状のある患者に対して、後脛骨筋と長母指伸筋に運動点ブロックを行った1例報告では、後足部の運動改善が観察されました(Ⅲ)。
尖足による異常歩行時、アキレス腱延長術などの足関節矯正手術を行うと、歩行の改善が見られ、約60~79%の患者では装具が不要になり、矯正効果は長期間にわたり満足度も高いことが報告されています(Ⅱb)。手術により、装具を装着しなくても歩行スピードと歩行の対称性が装具着用時と同程度であったという研究も存在します(Ⅱb)。
さらに、長母趾屈筋腱移行術が前脛骨筋移行術よりも効果的であるとする報告もあります(Ⅱa)。
まとめー歩行予後予測の要点ー
脳卒中後の歩行予後予測について、以下にまとめます。
- 脳卒中は歩行機能に影響を及ぼす可能性が高い。
- 早期のリハビリテーションと予後予測は重要。
- 歩行再建にはトレーニング、装具、電気刺激療法、バイオフィードバックなどが使用される。課題思考型アプローチ、トレッドミル、高強度トレーニング、自転車も有効。
- 痙性を克服するために総合的なアプローチが必要。
- これらの要点を把握し、脳卒中患者の歩行再建と予後予測の重要性を理解しましょう。