心不全ってどんな病気?
左室駆出率って?
拡張不全・収縮不全って何?
そんな疑問を解決していきます。
心不全は高齢になると多くの人が持っている病気ですよね。でも、心不全と言っても幅が広すぎてどんな病態を表しているかを正確に捉えられない人がいっぱいいます。
今回は心不全の拡張不全・収縮不全についてわかりやすく解説していきます。
Contents
心不全って何?
一般的には
心臓が悪く息切れやむくみが出現し、生命予後がだんだん短くなること
専門的には
心臓の器質的・機能異常により心ポンプ機能が破綻して「呼吸困難」「倦怠感」「浮腫」などが出現し運動耐用能が低下すること
心不全で押さえておくべきポイント
心不全は、「心臓の駆出機能」「心拍数」「前負荷」「後負荷」大きくは4つを押さえることが大切です。
心臓は全身や肺への血液量を保とうとします。
1回拍出量(SV) × 心拍数(HR) = 1分間拍出量(CO)
心臓の駆出機能は「左室駆出率」がポイント
心臓の左室の収縮機能を「左室駆出率」と呼びます。これが低下している状態は全身に血液を送る能力が低下していると捉えることができます。
心臓の状態 | 左室駆出率 | 特徴 |
左室駆出率が低下した心不全(HFrEF) | 40%未満 | 収縮機能の低下 |
左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF) | 50%以上 | 拡張機能の低下
心房細動などの不整脈や冠動脈 疾患,糖尿病,脂質異常症などもあげられるが,もっとも 多い原因は高血圧症 |
左室駆出率が軽度低下した心不全(HFmrEF) | 40%以上50%未満 | 境界型心不全 |
左室駆出率が改善した心不全(HFpEF)(HFrecEF) | 40%以上 | HFrEFとは異なる予後になる可能性も |
かつては左室の収縮機能ばかりが注目されていましたが、近年は拡張不全も重要な要素です。
EFが低下しない心不全の割合は40~50%の報告もあるので、EFのみで心不全を判断することは危険ですね。
ちなみに、呼び方は、、、
HFrEF(呼び方:ハフレフorヘフレフ)HFpEF(呼び方:ハフペフorヘフペフ)
収縮不全と拡張不全の違い
HFrEFは収縮不全でHFpEFは拡張不全だと断定できるわけでなく、双方が混在していることが多いです。
ですが、臨床的にはHFrEFは収縮不全・HFpEFは拡張不全と考える方がわかりやすいです。
収縮不全とは、左室の筋肉がうまく縮まないことで血液を全身に送ることができない状態。
拡張不全とは、左室の筋肉がうまく開かないことにより、その後の収縮を起こせない状態で、結果として全身に血液を送ることができない状態。
拡張不全と収縮不全の臨床的違い
心不全の左室収縮する機能を3つに分類して、それぞれの死亡率や臨床症状について調査したものです。
HFrEF(EF <40%)、HFmrEF(EF 40〜49%)、HFpEF(EF≥50%)のように分類しました。
日本人の入院中の心不全患者におけるHFrEF、HFmrEF、HFpEFの発生率は、それぞれ36%、21%、43%でした。
左室機能が低い人は年齢が低い傾向ですね。以外と左室機能が保たれている人ほど高齢であることがわかります。
HFrEF、HFmrEF、HFpEFこれらの患者の臨床的特徴に違いがあるものの、予後には大きな違いはありませんでした。
心不全の病態の違いにより予後に大きな違いがないことから、運動はどういった運動をどの程度するのかはまだまだ研究の余地があるようですね。
左室の拡張障害の鑑別
左室の拡張能を評価するには、①筋肉が弛緩する能力 ②筋肉の硬さ(コンプライアンス) ③左房と左室の圧差 を抑えていく必要があります。
その際有益なのが心臓エコーです。
僧帽弁口血流速波形(TMF)
E:僧帽弁口血流速波形の拡張早期波 A:僧帽弁口血流速波形の心房収縮期波
DcT:僧帽弁口血流速波形のE波減衰時間
正常であれば左房圧が高く左室が低いので血液の流れる波形は「Eが高く」「Aが小さい」波形を形成します。
E/Aが
正常 E/A>1、拡張能障害 E/A<1、拘束型 E/A>2
①のパターンのようにE波が高くA波が低いパターンでも、左室の弛緩能が悪くなったり、筋肉が硬くなっている状態では正常パターンを呈することがある。
僧房弁輪運動速度波形
心臓を下(心尖部)からみた僧房弁に流れる血流を評価するものです。
s’:収縮期波 e’:拡張早期波 a’:心房収縮期波
e`波は、左室の弛緩と左室の前方負荷で決まる。前述したE波は左室充満圧と左室弛緩の両者の影響を受ける。
Eを弛緩の指標であるe’で割ることで値E/e’が、左室充満圧の指標とできる。
E/e’<8 なら左室圧正常、E/e’≧15 は左室圧上昇です
E/A 偽正常化の時、E/e’を確認すればよいわけです。
拡張障害は総合的な判断が必要
拡張障害と収縮障害の治療法
心不全の収縮障害(HFrEF)に有効な治療薬は、ベータ遮断薬とレニン-アンジオテンシン-アルドステロン軸拮抗薬です。
しかし、心不全の拡張障害に対する有効な治療薬は確立されていません。
前負荷・後負荷とは?
心臓は拡張と収縮を繰り返します。拡張期に血液を十分に心臓内に取り込んで、収縮期に全身に血液を送り出しています。
この拡張期の血液量の負荷のことを「前方負荷」や「容量負荷」と呼び、収縮期の血液の負荷のことを「後方負荷」や「圧負荷」と呼びます。
例えば
貧血や脱水の状態では、前方負荷少ない状態ですので、心拍数を多くしないと1分間の血液量を保つことができません。
逆に高血圧は後方負荷が高い状態ですので、1回拍出量をより強く出さないといけないので心臓への負担が強くなります。
右心不全と左心不全は症状が違う
左心不全
左心不全では、左房圧上昇・低心拍出量が原因で肺にうっ血が生じます。
左心は右心から送り出された血液が肺を通って戻って来る場所です。左心はその後に全身に血液を送り出す訳ですが、左心不全では送り出す能力が低下していますので、血液が肺に停滞してしまいます。肺は水浸しになりうっ血が起こり呼吸困難感が出現します。
自覚症状
左房圧の上昇により肺うっ血が原因で呼吸困難感が出現。
起坐呼吸も起こることがあります。
起坐呼吸とは、寝ている状態では呼吸が苦しいのに、頭を上げて起きている状態では呼吸苦がないことで、これは寝ていると右心系への静脈還流量が増えることで、左心へ負担がかかりより肺うっ血を助長するためです。
低心拍出量が原因では、全身倦怠感・頭痛等の神経症状・食思不振等・四肢冷感・夜間尿・乏尿・脈圧の低下などがある。
聴診では、「Ⅲ音」「Ⅳ音」「肺野湿性ラ音」が確認できます。
右心不全
右心不全では、浮腫・肝肥大が生じます。
右心は左心から送り出された血液が全身を通って戻って来る場所です。右心はその後に肺に血液を送り出す訳ですが、右心不全では送り出す能力が低下していますので、血液が下肢や顔など全身に停滞してしまう状態になります。結果として全身はうっ血が起こり浮腫が出現します。
自覚症状
浮腫(顔面や両足のむくみ)、尿量の減少、体重増加、食思不振などを認めます。
まとめ
心不全の病態について理解できましたか?
特に注意したいのが左室の駆出能ですね。駆出能って言っても収縮だけでなく拡張能もポイントであることが理解できたと思います。
拡張能は心エコーのデータを読み解くことが多少難しいかもしれませんね。
今回の内容を理解できるだけで心不全に対する知識の幅が広がりますのでぜひ理解しておいてほしいですね。
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